NHK教育で毎週日曜の晩に放映されている『日曜美術館』が好きでよく視聴しています。いつもは録画しておいたものを見るスタイルなのですが、前回の放送はちょうどタイミングが合ってリアルタイムで見始めました。
衝撃!
【渡辺省亭 略歴】神田に生まれ、菊池容斎に弟子入り。最初の3年は書道ばかりやらされて絵は描かせてもらえなかった。パリ万博への出品を機に日本画家として初めて渡仏。帰国後、内外の博覧会や展覧会に花鳥画を中心に積極的に出品。その後、画壇とは距離をおき、弟子も取らず市井の画家として活動した。
渡辺省亭...まったく知らない日本画家でした。花鳥画が得意ということで何の気なしに見始めたのですが、『月夜にみみずくの図』という作品を見て衝撃を受けました。
画廊サイトのコラムにその作品画像と詳しい解説があります。
その卓越した技巧に息を呑むと同時に、「可愛い!こんなに可愛く描けるんや。すごいなぁ。フクロウさんへの愛情が溢れ出てる。鳥さん好き好きって描いてる」という妻の感想がスット~ンと腑に落ちました。
トラフズク
モデルとなったトラフズク。まるでトトロのようなふっくらしたフォルムに優しい顔立ち、そしてトレードマークの羽角が愛らしい鳥です。
現代と違って省亭が生きた時代はこうしたミミズクやフクロウがもっと身近な存在で、じっくりと観察する機会があったのだろうとは思います。けれど省亭の観察眼は並外れていたのではないでしょうか、鳥博士も舌を巻くほどに。そこに野鳥や野草に虫たちといった生き物に対する深い愛情あってこそ、鍛造されていった才能なのだと感じました。
容斎の下で書道に打ち込んだ3年間で得た筆さばきは、省亭独特の美意識を作品に込め得る技法へと昇華されました。花鳥画というとこれでもかと精緻にくっきりはっきりと線や色を用いて描き込まれている作品が多い印象ですが、省亭は線を要所だけに用い、薄く薄く色を塗り重ね、滲ませて描いています。
それでいてトラフズクの複雑な模様、空気をはらんだフワフワとした質感、とても立体的に描かれています。だからこそ描かれたトラフズクは抜群に愛らしい。衝撃でした。
さらなる衝撃は迎賓館の花鳥の間に飾られている『山翡翠・翡翠に柳』です。ヤマセミとカワセミを省亭らしい線を多用しない曖昧な色使いで描いた下絵を、七宝焼きの天才といわれた涛川惣助が銀線を用いずに見事に再現し、永遠に色褪せることのない作品となっていました。
4年ほど前に迎賓館を参観したのですが、まったく記憶に残っていません(苦笑)せっかくこんな素晴らしい作品をその目に出来る機会だったのに、もっと予習をしてから行くべきだった。
画壇とは距離を置き、市井の画家として一匹狼で活動していた省亭ですが、やはり生み出される作品の素晴らしさが認めらていたからこそ、国賓を接待する最も華やかな場に作品が飾られることになったのでしょう。
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正解や王道など無い『美』の世界においても、連綿と受け継がれ磨かれた守るべき技法や手法という枠組みは厳然としてあります。でも突如として、その枠組みから逸脱し、独自の表現を用いて驚嘆すべき素晴らしい作品を生み出し、新たな潮流を作り出す人もまた、現れると。省亭はそういう存在なのだと感じました。
場所:東京藝術大学 大学美術館会期:3/27~5/23*臨時休館中
日曜美術館でクローズアップされるということは、そのアーティストに何らかの動きがあるということ。ああ、東京藝大で省亭展が開催されていたんですね。そして緊急事態宣言の延長で、もはやこの目で省亭の作品を見る希少な機会を逸してしまっているという現実。もっと早く放映してよ、Eテレさん。
いつかどこかで省亭の作品が見られますように。
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